PS4名作再訪 No.01|Bloodborne
〜 血に濡れた街で、悪夢とダンスを 〜

『Bloodborne(ブラッドボーン)』は、フロム・ソフトウェアが2015年にPS4専用として送り出したアクションRPGです。
舞台は、奇病が蔓延したゴシック都市「ヤーナム」。私は狩人としてこの街をさまよい、獣と化した住人や異形の存在、そしてやがては理そのものと対峙していきました。
■ フロム・ソフトウェアというスタジオの存在感

もともと“硬派”という言葉がよく似合う開発スタジオだったフロム・ソフトウェア。『デモンズソウル』『ダークソウル』シリーズで世界を席巻した後、彼らが選んだのは、あえてファンタジーの定型から離れることでした。
そうして生まれたのが『Bloodborne』です。中世の剣と魔法ではなく、産業革命期を思わせる装いと、クトゥルフ的な異形の恐怖。「見慣れないのに、どこか懐かしい」という矛盾した空気感が、私の心にずっと引っかかり続けました。
とくにDLC『The Old Hunters』で訪れる漁村エリアは、Bloodborneの“悪夢”が最も露骨に形になった場所です。
海に沈む村、半漁人のような住民、空と地が反転したような宇宙的構造。ここに至って、Bloodborneは完全に正気を失います。
この漁村には、フロム作品の中でもとりわけ「恐怖」「悲惨」「救いの無さ」が凝縮されています。すべてが歪み、すべてが過去の罪の上に成り立っている。その圧倒的な空気の密度は、体験として私の記憶に深く刻まれました。
■ PS5で遊ぶ『Bloodborne』── 互換性がもたらす快適性
2025年現在、『Bloodborne』はPS5でもプレイ可能です。画質やfpsの向上こそないものの、ロード時間の劇的な短縮により、ゲーム体験は大きく変わりました。
もともと本作は「死んで覚える」ゲームデザインが前提。そのため再挑戦までのテンポが快適になるだけで、遊び心地は段違いです。ボスにやられても、すぐに再戦できる。失敗の記憶が新しいうちに立ち上がれるのは、本当にありがたい。
この快適さに一度慣れると、もう元の長いローディングには戻れません。それくらい、PS5による互換プレイは快適さの底上げをしてくれています。
■ 戦いは“攻め”で制す── 狩人の矜持
ソウルシリーズが「盾で守る」スタイルなら、『Bloodborne』は「回避と反撃で切り込む」スタイルです。ガードが無い。だからこそ、動き続ける。怯んだら死ぬ。逆に言えば、怯まなければ勝てる。
とくに、攻撃直後に奪われたHPを攻撃で取り戻せる「リゲイン」システムは本作独自の緊張感を生み出しています。
また、変形する「仕掛け武器」も印象的です。
状況に応じて性能が変わるため、武器1本でも戦い方に幅が出ます。斧で敵をなぎ払うか、仕込み杖で距離を取るか。狩人ごとに戦い方が違うのも面白いところです。
■ エルデンリングと比べて見えてくるもの
同じフロム作品でも、『Bloodborne』は『エルデンリング』とは真逆の方向に立っています。
エルデンリングは、圧倒的に開かれた世界。選択肢が多く、寄り道が楽しく、探索で強くなれます。「自由」が鍵になっています。
一方Bloodborneは、自由が無い。逃げ道も少ない。だが、それが美しい。狭く、暗く、出口の見えない道を、不安と共に進み続ける。その「閉じた世界」だからこそ生まれる没入感があるのです。
■ 見えるようになってしまう、という恐怖──啓蒙という名の代償
『Bloodborne』には、「啓蒙」という数値が存在します。初見ではよく分からないこの数値は、ゲームが進むほど、そして“真理”に近づくほど増えていきます。

だが、それは単なる経験値ではありません。これは「見えていなかったものが見えるようになる」力であり、裏を返せば、「見えなければよかったものまで見えてしまう」危険性をはらんでいます。
例えば啓蒙が一定値を超えると、街の大聖堂の上に異形の上位者が「実は最初からそこにいた」ことに気づけるようになります。変化したのではない、見えるようになったのです。
だがその代償として、狂気が忍び寄ります。啓蒙が高いほど発狂しやすくなり、味方NPCは徐々に狂っていきます。真理に触れることは、人間性の喪失でもあるのです。
恐ろしいのは、目の前の化け物ではありません。「これは恐ろしいものだ」と気づいてしまった自分自身なのです。
■ いまこそ、ヤーナムを歩く理由

リマスターも無ければ60fps化もありません。けれど、それでも。『Bloodborne』という作品は、今の環境(PS5)で、もっとも“心地よく”再評価できるタイミングにあると思います。
数時間だけ遊ぶつもりで起動したのに、気づけば夢中になってボスの前に立っている。音も、手触りも、死の重さも、あの頃と同じ。そして、今のほうが少しだけ快適に感じられます。
フロム・ソフトウェアの“狂気の系譜”をたどるなら、『Bloodborne』は決して外してはいけない1本だと私は思います。
悪夢の夜が明けるまで、あと何度、狩人は死を繰り返すのでしょうか。
©Sony Interactive Entertainment Inc.
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